人と自然の関わりを生み、地域と都市をつなぐ建築とはー 「循環型経済社会における、個人と建築・都市のつながりを考える」イベントレポートvol.3

建設業から、循環型社会の実現を目指す
GOOD CYCLE BUILDING TALK vol.2を開催

淺沼組名古屋支店を拠点にして「建設業から循環型社会を目指す」ことをテーマに、循環型社会に向けての実践者を招き、つながりと共創を生むことを目的としたトークイベントシリーズ。2回目となる今回は、名古屋支店が昨年『crQlr AWARD 2022』アーバニズム賞を受賞したことを記念して、アワードを主催する株式会社ロフトワーク協力のもと「循環型社会における、個人と建築・都市のつながりを考える」を開催しました。
<イベント詳細ページ>
循環型経済社会における、個人と建築・都市のつながりを考えるー『crQlr AWARD2022』受賞記念イベント開催

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素材との向き合い方から、循環をデザインする
循環型社会における、個人と建築・都市のつながりを考える/イベントレポートvol.1


地域の資源を生かし、森と人の物語を実現する
循環型社会における、個人と建築・都市のつながりを考える/イベントレポートvol.2

今回のレポートでは、ロフトワークの宮本さんをモデレーターに、ゲストスピーカーの吉泉聡さん(名古屋支店改修の家具をデザイン)、岩岡孝太郎さんの2人に加え、淺沼組名古屋支店改修の担当者、山田幸一さん(施工)と岡崎紗矢さん(設計)を交えたクロストークの様子をお伝えします。

Speaker

  • TAKT PROJECT代表 デザイナー

    吉泉聡

    既存の枠組みを揺さぶる実験的な自主研究プロジェクトを行い、ミラノデザインウィーク、デザインマイアミ、パリ装飾美術館、21_21 DESIGN SIGHT、香港M+など、国内外の美術館やデザインの展覧会で発表・招聘展示。その研究成果を起点に、様々なクライアントと「別の可能性をつくる」多様なプロジェクトを具現化している。
Dezeen Awards 2019(イギリス)にて「Emerging Designers of the Year」に選出、Design Miami/ Basel 2017(スイス)にて「Swarovski Designers of the Future Award」に選出など、国内外のデザイン賞を多数受賞。3つの作品が、香港M+に収蔵されている。
iFデザイン賞審査員(2023年)、グッドデザイン賞審査委員(2018年-)。東北芸術工科大学客員教授、武蔵野美術大学基礎デザイン学科非常勤講師。21_21 DESIGN SIGHT企画展「Material, or 」の展覧会ディレクターなども務める。

    吉泉聡
  • 株式会社 飛騨の森でクマは踊る 代表取締役社長/CEO

    岩岡孝太郎

    1984年東京生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所で勤務。その後、慶應義塾大学大学院(SFC)修士課程修了。2011年、“FabCafe”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年、FabCafeをオープン、ディレクターとして企画・運営する。2015年、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げに参画し、2016年FabCafe Hidaをオープン、2019年より現職。

    岩岡孝太郎
  • 株式会社ロフトワーク Layout Unit シニアディレクター

    宮本明里

    学生時代に能登半島で御祓川大学の立ち上げを行うなど、ひととまちの関わり方に興味を持ち、都市計画のコンサルタント会社に入社。まちづくりの事業計画や構想立案等に取り組む。「まちの魅力を司るのは個人や企業の創造的な活動」という意識から「共創の場づくり」を実践するべく、2018年にロフトワークに入社。プライベートでは、地域と10代をつなぐ古本屋「暗やみ本屋ハックツ」を設立し、各地の本にまつわる企画のサポートを行っている。人が集まる場のコミュニティ設計、コミュニティの接点を作ることが得意。

    宮本明里

建設業における循環を、楽しく、やってみる

宮本

本イベントは、淺沼組名古屋支店改修プロジェクトが「crQlr AWARD2022」のアーバニズム賞を受賞したことの記念イベントになります。まずは、アワードの審査員でもある岩岡さんより名古屋支店改修プロジェクトについて、どのように感じられたかコメントをいただけますか?

岩岡

淺沼組名古屋支店は、とにかく楽しそうな印象でした。建設業は新しいものを建てていくことが仕事の中、建て終わったその後のことや、解体したときに出てしまう産業廃棄物のことまで考えなければいけないのは、普通に考えると大変なこと。それを、プロセスで各所に使う素材のことや、これまで付き合ってきた産地のことなどすべてを巻き込んで、すごく楽しいプロジェクトに仕上げている。建設業における循環を「やらなければいけない大変なこと」ではなく、「楽しいこと、だからみんな一緒にやろうよ」というポジティブなものにしているところが、最大のポイントだと思って審査をしました。

宮本

社員がつくるプロセスに参加しているところも、そこから愛が生まれてくるように感じますし、客観的にみてもワクワクするものに感じました。自社ビルの中で徹底的に循環を試してみることと、自社の中で閉じずに、パートナーと協業でつくっていく、そのプロセスがオープンなものであり、その後も含めて考えていくというのが、特徴的だと思います。

山田

一番大切にしていたのは、環境をテーマにして、デザインから設計施工まで、何ができて何を伝えられるかということを考え抜いたことです。各部署で全て説明がつく環境配慮型の建物ができたことは、多くのデザイナーさんとの協業があってできたこと。施工を担当した個人的な思いとしては、考え抜いて、悩んで、妥協せず、やり抜いた、この4つが印象的でした。

宮本

吉泉さん、岩岡さんもプロジェクトに関わってのご感想はいかがですか?

吉泉

妥協がないと聞くと勝負みたいですが、僕自身、楽しい感覚で取り組んでいたなと思っています。先程もプロジェクトのお話の中で紹介させていただきましたが(イベントレポートvol.1 素材との向き合い方から、循環をデザインする)、家具の制作においてはとにかく前例のないことに取り組んでいて、通常だとそういった提案は、「やったことないから壊れたらどうする」、だとか「やったことないからお金がかかる」という理由でリジェクトされることが多い。技術研究所の皆さんから、「とりあえずやってみよう」と言っていただけたのはよかったです。

岩岡

ヒダクマとしては、数珠繋ぎ的にこのプロジェクトに関わっていて、TAKT PROJECTさんからデザイナーの狩野佑真さんに声をかけ、狩野さんからヒダクマへと声をかけていただいてプロジェクトに参加させていただきました(イベントレポートvol.2 地域の資源を生かし、森と人の物語を実現する)。通常、最初は予算や納期のことが出てくる。それより先に、「森に行こう」と言って、淺沼組の方も来られるというところから始まるのが印象的でした。技術者の方も一緒に楽しくできるからこんなことが生まれるのではないかと思います。

宮本

設計や施工の担当者だけではなく、社員全員の方がプロジェクトに参加するということも特徴的ですよね。また、土を積極的に取り入れられることもなかなかないことに感じました。名古屋支店はWELL認証も取得し、空間の快適性の効果も計測されているとうかがったのですが、自然素材を使うことによる効果は、社員の方も実感されさているのでしょうか?

岡崎

技術研究所では名古屋支店の社員を対象に改修前後の健康調査をして、自然素材を用いたオフィスで働くことが健康増進につながるかという検証を行なっているところです。個人的な感想としては、調べるまでもなく、居心地の良さ、働きやすさとしてはメンタルや精神的にも影響を与えていると思いますし、その結果、会社としても生産性の向上につながっていくように感じています。また検証の結果が出れば、自然素材を使うことの効果の裏付けを示すことができると思っています。

宮本

自然のそばで過ごすことは誰も否定しない。空間の質の良さやウェルビーイングだということは誰しも感じることですよね。それがなぜかと考えたときに、先程のお二人のプレゼンのからも、本来人間があるべきところがそこにあり、もといた場所に戻るような感覚もあるのかなと思いました。

ものと人との接続点をつくることが、循環につながる

宮本

吉泉さんのプレゼンの中で出てきた自然(じねん)という概念で、素材の存在のありのままをどう引き出すかというお話を興味深く聞いていたのですが、場所性や地域性を空間にどう取り入れるかということで意識されていることはありますか?

吉泉

外部とのつながりを考えたときに、そもそも土地があり、その上に建物があり、空間になりますが、空間を使う人が、その土地とのつながりをどれほど感じられているかは疑問が残ります。暮らしの中では、動く人間に対して、動かないものたちに囲まれ、身近なものとのつながりもどんどん希薄になっているようにつくられ、これまでの社会が成り立っているように感じます。例えば、プラスチックの制作工程でいうと、原油がタンカーで運ばれ生成され、「ナフサ」という原料になり、樹脂をつくる会社に送られるのですが、輸送経路は地下や海底面など見えないパイプラインでつながれています。そして、出来上がったものだけが完成形として僕たちの前に現れる。それはなぜかというと、危ない素材だったり扱いが難しかったりするわけなのですが。突然目の前に現れたマテリアルはすごく不思議に感じるところがある。その違いをつぶさに見て、人との接続点をどのようにつくりだすかを考えることで、やるべきデザインが見えてくる気がします。

宮本

今、都市部の人には、木というものも、それと同じように遠い存在でわかりづらくなりつつあるように感じて、それをヒダクマとしては、木と人との関係性づくりに取り組まれているのかなと思いました。

岩岡

そうですね。それが先程お話しした「森は木材ではない」とつながることだと思います。これは笑い話として聞く、「海に刺身は泳いでいない」という話に近いかと思っています。海に刺身が泳いでいると本気で思っている子供が増えて、魚が泳いでいるのを見て衝撃を受けたという話。暮らしの中では、スーパーで刺身が「お魚」として並んでいて、もとの魚の姿とつながらない。それが森でも同じことが起こっていて、木材というものと、木のもとの姿がつながらない。これは、木が木材になる工程が隠されてしまっているからだと感じます。先程の吉泉さんのパイプラインが見えないということとも重なると思いますが、木材の産地が都市から離れたところにあるため、地方から木材の形になってくるので、つながるところが見えない。その工程とつながることができれば「もっとここで無理しないで、この状態で使いますよ」とか、「そんなに選別しないでも、等価で使うことができますよ」と入り込む余地が生まれ、スムーズな循環を促してあげることができるのだけど、それが見えないから循環にアクセスできないことが起こっていると思います。

宮本

実際に森に足を運び込むことは、一見非効率なことに見えるけれど、一緒に歩いて木を選ぶことでデザインする側の視野が広がり、多様性が生まれますよね。都市の人をそこに巻き込むことで、都市と地方の関係性も大きく変わっていくような気がします。

岩岡

都市と地方の関係性については、人口が集中している都市部とそこから離れている地方で、これだけものが溢れている都市の中で、「地方から学ぼう」という文脈で話されることが多い。それは、都市側の視点であり、もっと双方向の対等な関係性を生み出すことが大切かと思っています。地域の視点としても、離れている場所の人とパートナーとしてやっていくことに応えられるだけの強度や、地方ならではのものを出せるような状態にしておく必要があると思う。これまでつかながってこなかった分野で一緒にものづくりをして体験をして、地域の人たち自身も自らをアップデートしていくことができる。お互いの視点で高め合い、新しいものが生まれる。そういったことが、地域と都市がつながる共創の新しいあり方なのではないかなと思っています。

宮本

価値の交換ですよね。自分たちの暮らしや、当たり前のものの中に、外からの目線が入ると地元の人たちの気付きにもつながると思います。そんな関係性を、ひとつの空間をつくっていく中で、どうつくり続けられるかが重要なことのように思いました。

パートナーと共創して循環の仕組みをつくる、その一歩とは

宮本

淺沼組名古屋支店のように、パートナーとともに共創しながら循環の仕組みを築きあげていくことがこの先も増えていけば良いなと感じています。最後に、皆さんの方から、どういったところから始めたら良いのかアドバイスをいただけますでしょうか?

山田

今自分のいる場所でどういうものが残せて、どういうものが循環できるかということを、身近にあるものから捉えると入りやすいということです。そして、その先に、3Rと呼ばれる「リデュース・リユース・リサイクル」というものに変わるときに、自分が楽しく変えるとしたら、どの3Rでつくりかえられるかを考えたら楽しく取り組みやすく、そこから広がっていくと思います。まずは身近なものから、環境と結びつけて考えていくことが一歩になると感じました。

岡崎

循環や環境配慮に取り組むことは、省エネ・脱炭素・自然素材利用などさまざまな側面があると思います。今回のプロジェクトのスタート時には、木に関しては奈良県の吉野の森へフィールドワークをしたり、土の施工に関しては、土をつくるプロセスを勉強しに協力会社さんのところへ行ったりと、体験の中から得るものが非常に多かったです。結果的には、多くのことに取り組めたということがあるのですが、まずはひとつひとつ、目の前のことに取り組んでいけたら良いのではないかと思います。

吉泉

使っていく人たちがつくることに参加するのはすごく大切なことだと思っています。持続的に関わっていく人は、使う人。その人が、そこにあるマテリアルやものに触れて、「これはどこから来たんだな」とか、「これはこう出来ているんだな」といったことが分からずに生活することは、出来たあとに何か不具合がおこっても何もできない。それが問題なのではないかと思います。自分がいる場所がどのような状態であるか、どことつながりながらどうできているか、ということが感じられると関係性が見えてきて、自然のことも考えやすくなり、人や産地とも関係が再発見されるようになる。今回も、淺沼組の社員の皆さんが、土壁の施工や家具の制作にも参加されていたのがすごく良いなと思っていて、愛着がわくということだけでなく、マテリアルがどこから来たということが、体感値としてあるというのがすごく良いことだなと思いました。

岩岡

淺沼組さんが、ここまで徹底的に取り組むことを決断してそれを実現することができる、技術研究所、設計・施工や職人さんがいて、総力で取り組めることは他にはない強みだと思っています。こういった手法が建設、建築、都市の中で空間をつくっていく以上、必要なプロセスで、「人と建築の間にある正しい素材との付き合い方なんだ」、ということを淺沼組さんから発信して、広げていくことを続けていってほしいと思います。

淺沼組名古屋支店改修の取り組みを通じて、人と出会い、産地とつながり、素材のストーリーを知り、現場では職人と社員の笑い声が起こり、これまでの建設現場にはないものづくりの原点に触れるような時を経験しました。今回のゲストのTAKT PROJECT 吉泉さんとヒダクマの岩岡さんのお話を聞き、共通していたことは、最先端の技術やデザインを生み出しながらも、これまで日本人が積み上げてきた文化や暮らし、価値観から学び直し、そこにこれからの技術も掛け合わせているところのように感じました。

私たちは地球環境に大きく手を入れ続けてきた結果、これまでの価値観を見直さなければいけない局面になりました。自然との向き合い方、この先の豊かさをつくり出すヒントは、案外、私たちの身近なところにある。これまでの人々の暮らしや伝統から学びながら、そこに現代の技術を重ね、人との共創で新しい価値を創造していくこと。そして、その先にまた人々とシェアをして、発展させていくことができれば、未来の景色を少しずつ、自分たちの手で変えていくことができるのかもしれません。

Photos_Matsuchiyo
Edit&text_Michiko Sato

GOOD CYCLE BUILDING TALK vol.2
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